山形市に本社を置くエム・エス・アイは独立系ITベンダーとして、顧客の課題の発見から解決まで導く提案型のビジネスで事業を拡大している。金子昌弘社長は「顧客との関係性を築く人間力が当社の競争力の源泉」と語り、顧客への伴走支援を重視した戦略を描く。
(取材・文/大畑直悠)
創業から「100%元請け」
――事業の概要を。
独立系ITベンダーとして山形県内のさまざまな業種のDXを支援する地域密着型ビジネスに加え、県外企業も含めた製造業に特化した事業を展開している。また、米Salesforce(セールスフォース)製品や「Google Workspace」といったクラウド製品を扱う部隊もあり、この三つが事業の柱になっている。2025年9月期の売上高は16億7000万円ほどだった。
創業時から下請けはせず、100%元請けでビジネスを展開しており、特定のメーカーに依存せず、顧客の課題に応じたシステムを提供している。顧客に対しては提案型で関わり、成果が出るまで一貫して伴走している点が特徴だ。
――地域の顧客が抱える課題は。
人材不足や生産性の向上など、全国で共通する課題を抱えている。特にコスト高への対応に悩む顧客が増加しており、長年、販売管理システムを開発・提供してきた当社の強みを生かせる状況になっている。生産や原価といったさまざまなコストに直結する部分をしっかりと管理したいという要望が多くなってきた。
DXが重要だと騒がれているが、実際は何をどうしたらいいか分からないという顧客が大半だ。情報システム部門の体制が十分に整っていたり、DXに詳しい社員がいたりする会社は少ない。だからこそ、顧客に近い立場でしっかりと会話する機会が重要になってきた。業務内容をヒアリングし、課題を発見する。そこで初めてシステムで解決すべきかどうかを検討してもらえるようになる。
既存顧客との関係性という点では、従来はすでに納めたシステムの保守料をいただくという考え方だけだったが、最近では導入したシステムをさらに活用するための定例会といった「伴走支援」に対価を頂戴するケースが増えてきた。例えばセールスフォース製品であれば、顧客の営業戦略を定期的に聞き、それに合わせた活用法を提示している。顧客ごとの課題に具体的な回答をすることが導入後の利用の促進につながっている。
首都圏でも事業を伸ばす
――製造業向け支援の強みは。
自社開発の生産管理パッケージ「iFactory」を提供している。製造業では顧客ごとに扱う素材が固体だったり流体だったりと、管理の仕方がそれぞれ違う。多様なニーズに対応できるテンプレートを複数、用意し、大幅なカスタマイズをしなくても各顧客のニーズに対応できる点が強みだ。加えて当社はフレクシェが提供する生産スケジューラー「FLEXSCHE」の販売も手掛けており、大手顧客への導入実績が多くある。同製品とシームレスに連携して生産スケジュールのシミュレーションから管理までできる点も差別化要素だ。
金子昌弘 代表取締役社長
FLEXSCHEに関しては首都圏の企業からの引き合いもあり、これに応えるためにさいたま市にもオフィスを構えている。首都圏でのビジネスは好調だが、当社が直接、営業をしているわけではなく、フレクシェやパートナーからの紹介がメインだ。今後は、当社の主体的な営業活動により案件を発掘していく方針で、ビジネスの拡大に期待している。
――製造業以外で県外に展開している事業は。
冠婚葬祭などの領域で、会員の管理を支援するシステムなどを展開している。山形県内の企業を支援する中で培った当社の得意とする領域に関しては全国への展開を進めている。
人の差が企業の差
――モンゴル・ウランバートルにも拠点を置いている。
モンゴル人社員が帰国後、システム開発会社を起業したのがきっかけだ。その社員が今でも当社の従業員として働いてくれている。サテライトオフィスとしての機能とともに、モンゴル企業へのシステム開発の委託や、当社で働きたい現地の人材を確保する役割も担っている。
当社ではモンゴルも含む多くの外国人材が在籍しており、社員の1割を占めている。地方企業の人材採用は難しい状況だ。だからこそ外国の優秀な人材は積極的に採用している。
――組織マネジメントで重視していることは。
人材の教育には力を入れており、人の差が企業の差だと考えている。その意味で当社は「人づくり」をする会社であるとも言える。当社のコーポレートメッセージは「人とシステムと未来を創る」で、人が最初に来る。営業であれSEであれ、社会人として恥ずかしくない対応やコミュニケーション能力を発揮できるようにするために、さまざまな研修を用意している。顧客に寄り添い関係性を築く人間力を育成することを何より大切にしており、ITの高い技術力より重視している。
Company Information
1992年に設立。流通や製造、自治体向けにシステム開発を提供する。山形県内に加え、仙台市、郡山市、さいたま市、モンゴル・ウランバートルに拠点を持つ。