前職で地域の家電店を取材していた頃、可愛がっていただいた店主さんにお茶をごちそうになりながら、よく聞いた話があります。それが、VHSとベータのビデオ戦争です。当時は、AV業界を真っ二つにするような争いで、販売する側もなかなか大変だったそうです。

　ものを売る側でもそうなのですから、つくる側はもっと大変だったことでしょう。ライバル社の製品は買わない、見たくない、なんて話も聞きました。そんなビクターでビデオ事業部にいた人が、ソニーから分かれたVAIOの社長に就任する……。どんな運命のいたずらでしょうね。

　入社に際して抵抗はなかったかと聞けば、「家電の業界では、そんなことはたくさんあった。気にしていられない」。確かにその通りですが、敵陣に乗り込むとは、なかなかどっしりした人です。ものづくりは腰を据えて取り組まないといけないんですね。（山下彰子）