景気は、今年のいつ頃からよくなるのか───。SIer幹部は、来年度（2012年3月期）の市場動向の見極めに神経を尖らせる。情報サービス産業協会（JISA）の浜口友一会長（NTTデータ相談役）は、2011年の国内情報サービス市場が、リーマン・ショック以降、3年ぶりにプラス成長に転じる見通しを示している。この予測が的中すれば、11年度はようやく回復に向かうことが期待できそうだ。ただ、JISAの岡本晋副会長（ITホールディングス社長）は、「プラス成長といっても、数％程度の小幅なもの」とみる。別のSIer幹部は、「この程度の水準では、大手や得意技をもつ中堅・中小SIerはよくても、その他多数のSIerやソフトハウスは依然としてマイナス基調から抜け出せない」と厳しい見方をする。

　成功へのポイントは何か。浜口会長は「オープン」と「スキルセット」の二点を挙げる。標準的な技術を使ったクラウド/SaaSサービスや、デファクトスタンダードになっているパッケージソフトを積極的に採り入れる。さらに、こうしたメジャーなサービスやソフト製品に関して専門的なスキルセットをもつ。そうしたうえで、業種攻略やグローバル展開を進めることを基本とする。これまでにも指摘されてきたことかもしれないが、実態をみると多くのSIerが、オープンやスキルセットを当てはめにくい受託ソフト開発で売り上げを確保しているのが実際のところだ。むしろ、オープン戦略は既存の収益源を損なう諸刃の剣ともいえる。

　日本のSI業界は、カスタムソフトや商慣習、言語の壁に守られてきた側面がある。だが、ユーザー企業は、国内市場の成長可能性が限りなく低くなるなか、こぞって海外進出を拡大する。ユーザー企業自身が進んでオープンで優れたスキルセットを内包したITを駆使しなければ、グローバルでの競争には勝てない。例えば、有望視されているスマートコミュニティでは、国家規模のプロジェクトになるケースが多く、かつ国内外の多数のベンダーが参加することになる。公平さを保つため「SOAのようなオープンな技術が重視される」（JISA浜口会長）とみられ、独自技術による囲い込みは不信感を抱かれかねない。

　ITがスマートコミュニティの要の技術の一つであるように、ユーザー企業のビジネスにおいてもITの重要性は増し続けている。日本のSI案件は、SIerが丸抱えすることが多いが、欧米や中国はユーザー自らが内製化するケースが主流。浜口会長は「ITの重要性からみて、国内でも内製化は進む」と予測する。客先常駐タイプのビジネスが増えることになるが、しかし、安易な技術者派遣は禁物。仮に内製化が進むとしても、スキルセットをもったプロ集団が顧客のIT戦略をリードする不退転の決意が求められる。（安藤章司）