AIよる業務支援システムの高度化がさまざまな業界で試みられている。企業が保有する自動車の運行を管理する、「テレマティクス」と呼ばれるシステムもその一つだ。走行データの記録や稼働状況の可視化といった管理のための仕組みに、AIによる分析を加えることによって、事故の削減や車両の故障予知など、より高度な課題解決につながることが期待されている。テレマティクスソリューションを提供する3社に最新製品の特徴と販売戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜、日高 彰、南雲亮平)
NTTドコモビジネス
車両管理と安全支援を統合型で白ナンバー車両向けに拡販
NTTドコモビジネスは、車両管理サービス「LINKEETH DRIVE」を2023年から提供している。それ以前も20年以上にわたりテレマティクスサービスを提供してきたが、AIによって機能をアップデートした。安全運転管理、動態管理に加えて、アルコールチェックサービスも加えた一体型のサービスで、企業のモビリティーDXを支える基盤として展開している。LINKEETH DRIVEは、同社のモビリティーデータプラットフォーム「MAXIV」の上に構築している。車両から位置データ、映像データなどを取得し、リアルタイムで分析したり、連携したりすることが可能で、企業の業務効率化と安全性の両面を支援する。
AI搭載通信型ドライブレコーダーから取得する走行データを活用し、危険運転検知、運転診断・ヒヤリハット通知、車両位置・走行履歴の可視化などの多彩な機能を提供している。顧客からは、さまざまな映像データを取得したいというニーズが大きい。このため、走行中のリアルタイムデータだけでなく、過去の走行データもドライブレコーダーから取得できるようにしている。場所と時間の両方を指定して、トラブルがあった際にピンポイントで確認できる機能が好評を得ているという。
事故の発生を減らすために、ドライバーの運転技能向上に役立てる機能も評価が高い。警察庁の統計によると、事故の約8割は“ながら運転”などの安全運転義務違反が原因になっている。同社では、事故削減には運転技能と運転者の意識の向上が不可欠との考えから、ドライバーモニタリングシステム(DMS)や先進運転支援システム(ADAS)を活用したドライバーの安全運転義務違反の未然防止を図っている。管理者だけでなく、ドライバー向けにも利便性を向上できる機能を提供。スマートフォン用のアプリケーションから、ドライバーの走行データや運転診断結果の確認、日報登録が可能で、必要な情報を追加登録するだけで日報を作成できるようになっている。
NTTドコモビジネス
山川貴弘 主査
法人向けテレマティクス市場について、同社プラットフォームサービス本部5G&IoT部第二サービス部門の山川貴弘・主査は、「新規参入が増え競争が激化している一方で、サービスの選択肢が広がり、市場は拡大している」との見方を示す。その中で自社製品の優位性については、▽統合型モビリティー管理サービスとしての完成度の高さ▽多彩な車両に対応可能▽管理者とドライバーの一体運用―の3点を挙げた。中でも対応車両の多さについては、トラックや乗用車だけでなく、自動二輪車、電車にも取り付け可能で、いくつかの鉄道会社に導入されている。
メインターゲットとしている販売先は、法人向け白ナンバー車両だ。業種は問わず、企業の営業車両などに幅広く導入されている。タクシーや物流業者など緑ナンバーの車両は法的規制が多く、車両の運行データを記録するデジタルタコグラフが搭載されているケースも多いため、白ナンバー向けに拡販している。長距離の移動がある車両での採用が多い。また、建設現場などで、作業中の映像を確認し、正しく作業ができているか確認したい工事車両に取り付けるケースもあるという。
NTTドコモビジネス
有田好孝 部長
販売は、直販と代理店経由が半々程度。間接販売ではサービスの再販が多いが、代理店によっては顧客の要望に応じて自社の製品をセットで提案するケースもある。同部販売推進部門の有田好孝・担当部長は、「当社は全国に営業担当がいる。地域や業種に偏りなく必要なお客様に製品を届けていきたい」と展望する。テレマティクス製品はAIによる機能向上が進んでおり、山川主査は「AIの活用を一層進め、安全運転支援や業務効率化に貢献していきたい」としている。
NEC
運転傾向に応じた安全指導文をドラレコ映像から自動生成
NECは10月、同社のテレマティクスサービス「くるみえ」に、生成AI技術を活用した安全運転指導機能を追加し、販売を開始した。危険につながる運転がドライブレコーダーに記録されると、映像を分析したAIが安全運転を支援するアドバイス文を自動的に生成するというものだ。
同社は11年から、ドライブレコーダーの映像や運行データなどをクラウドで分析し、車両の運行を管理するくるみえを提供している。車両の予約やアルコールチェックなどの機能も統合しており、多数の営業車を保有する企業などの運転関連業務を包括的に効率化するソリューションとして展開し、導入実績は約400社、管理する車両台数は約2万台に上る。
これまでも安全運転を支援するため、急ブレーキなどの危険運転を検知すると、その前後の映像をクラウドへ自動的に保存するとともに、管理者に通知する機能を提供していた。安全管理者は映像を再生して危険運転の内容を把握し、ドライバーに対するコメントを入力して安全のための指導を行うことができる。
しかし、1件あたりの映像データは数十秒程度であっても、管理する車両の台数が多くなると、全ての映像を目視で見返してどんな事故のリスクがあるのかを確認し、ドライバーごとにコメントを記入するのは管理者にかかる負荷が大きい。定型的なコメントなど実効性の薄い指導が続いたり、管理者によって運転指導の質にばらつきが生じたりという問題もある。
そこでNECは、長年培ってきた映像認識AIと生成AIの技術を生かし、映像の解析と指導文の生成をAIが自動的に行うことで、くるみえがより実効性の高いかたちで事故削減に貢献できるように機能拡充を行った。
クラウドにアップロードされた危険運転シーンの映像をAIが解析し、「横断歩道」や「赤信号」など特に注意が必要なものについてタグ付けを行う。さらに、危険の内容に応じて、「信号あり横断歩道では信号の変化を予測し、早めに減速を開始することで急停車を防ぎましょう」といったように、具体的な改善方法を含む指導文を生成する。
管理者は会社全体、またはドライバーごとの危険運転の傾向を把握できるので、自社の運転にどのようなリスクがあるかを分析し、組織の安全戦略の検討につなげることが可能。アルコールチェックを含め、車両を保有する企業では安全管理業務の負荷が高まっている一方、現場では点呼などの確認作業の形骸化も指摘される。人に依存していた管理業務に生成AIを導入することで、指導スキルの高い安全運転管理者を置けない事業所でも安全を高められるようにしていく。
生成AIによる運転アドバイスの例
くるみえはNECの直販営業に加えてパートナー経由での販売も行っており、自動車リース会社が車両リースの付帯サービスとして提供する形態が多いという。また、映像認識や指導文生成に用いられているAIはテレマティクスに特化した技術ではないため、他のさまざまな現場業務の分析や作業記録の作成などに適用できる可能性があるとしている。
Dynabook
ノートPCの技術を応用し運行管理市場に本格参入
Dynabookは、PCメーカーとして培った堅牢性やバッテリー技術を活用し、14年からテレマティクス関連のハードウェア開発を手掛けてきた。23年12月には、AI搭載の通信機能付きドライブレコーダーで法人向け運行管理サービス市場に本格参入。現在はクラウド型の運行管理ポータルとあわせて提供している。
同社のドライブレコーダーはメイン、車内、後方の最大3チャンネルを同時に撮影可能。脇見や居眠り、ながら運転、車間距離不足などの危険運転をエッジAIがリアルタイムで検知し、運転者へ注意を促す。NFCによるカード読み取り機能も搭載しており、運転免許証をタッチすることでドライバーを認証し、不正な運転を防止することもできる。
同社ならではの特徴が、トラブルでエンジンが停止しても最大20分間自動で録画・記録を続けられるバッテリーを搭載している点だ。ソリューションビジネス統括部ソリューション営業部テレマティクスアカウント営業担当の坂元友一・グループ長は、「夏場は高温、冬は低温になる厳しい車内環境でも耐えられるよう、ノートPCの技術を応用した」と説明する。万一の通信切断や電源供給の停止時も記録とサービスを継続できる堅牢な設計は、テレマティクス市場での付加価値になるという。
Dynabook
坂元友一 グループ長
運行管理ポータルは、速度や走行時間、位置情報などの運行データをクラウドに集約し、管理者向けに運行状況を可視化する。管理者は危険運転の発生をリアルタイムに把握でき、評価・指導を行うことができる。アルコールチェックサービスと連携し、呼気検査時の顔写真やデータをポータルに取り込んで統合管理する機能も搭載する。
テレマティクス事業について坂元グループ長は、法規制の強化や安全運転管理の義務化への対応はもちろん、「コンプライアンスを守っている」という事実を証明することで、「企業の社会的責任と信用の維持」にも役立つと強調する。また、「国内の業務用テレマティクス市場は拡大傾向にあり、25~30年にかけて年率15.5%の成長が見込まれる」との見解を示し、ソリューション事業のなかでも特に大きな柱と位置付けている。
今後は、多数の車両を管理する企業向けにダッシュボード機能の実装や、車両センサーと連動した故障予知診断、日時指定で映像を再生する機能などの開発を進める。さらに、パートナーと連携し、運行データを使ったeラーニングや事故多発地点のマップとの連携なども検討し、より包括的な安全運転管理ソリューションの提供を目指す方針だ。