米IBM(アイビーエム)は米国時間の5月4~7日、ボストンで年次イベント「IBM Think 2026」を開催し、AIを中核に据えた機能群を発表した。エージェントプラットフォームや開発ツール、データ基盤などを通じて、個別業務の効率化にとどまらず、ビジネスプロセス全体の変革を促した。
基調講演の会場。
「IBM Think 2026」には5000人以上が参加した。
基調講演でアービンド・クリシュナ会長兼CEOは、AIの活用度合いによって企業間の競争力に格差が出ていると指摘した上で、重要なのは投資の規模ではなく、AIをプロセスに深く組み込むことだと強調。「AIは業務の支援ではなく、ビジネスを動かす存在になる」とした。
アービンド・クリシュナ会長兼CEO
注力領域は▽AI▽ハイブリッドクラウド▽量子コンピューティング―だと提示。ハイブリッドクラウドは「妥協」ではなく、レジリエンスを備えたアーキテクチャーであると強調した。量子コンピューティングはAIが扱いきれない計算領域を補い、アルゴリズムの進化を加速する、「AIと補完し合う」関係だと展望した。
エージェントやデータ基盤に注力
今回のイベントでは新製品の発表に加え、既存の基盤の機能拡張や、すでに限定アクセスを発表している製品の一般提供についても言及し、ポートフォリオの充実ぶりをあらためて示した。
2025年の限定アクセスから存在感を示してきた開発支援ツール「IBM Bob」は一般提供がアナウンスされた。講演では、Bobが開発メンバーとしてソフトウェアの計画からテスト、セキュリティーやコンプライアンスの確保、デバッグ、文書作成まで担い、コードアシスタントにとどまらない姿をアピール。IBM社内では8万人が利用し、生産性が45%向上したという。
Bobと親和性があるのが「watsonx Orchestrate」だ。Bobや他社ツールで開発したエージェントを管理するだけでなく、既存のエージェントでは補い切れない役割を分析し、最適なエージェントの開発につなげる。これまで、watsonx Orchestrateはエージェント構築に焦点が当たっていたが、エージェント運用の拡大を見据え、コントロールプレーンとしての方向性も打ち出した。
データレイヤーでは3月に買収を完了した米Confluent(コンフルエント)のリアルタイムデータ処理と「watsonx.data」の連携が、ハイブリッド環境へのアプローチの強化では脆弱性管理に強みを持つIT運用基盤の「IBM Concertプラットフォーム」が、それぞれ紹介された。このほか、インフラ環境を可視化するナレッジグラフ基盤の「HCP Terraform powered by Infragraph」も発表された。
データの所在やプライバシーを統制するソブリン(主権)の確保が浸透する中、AIエージェントが実装されると、アクセス権限などにもソブリン性が求められるようになる。この課題に対しては、ソフトウェアスタック「IBM Sovereign Core」を提供するとした。160以上の規制に対応し、運用中のシステムが準拠しているか継続的に記録する仕組みを備える。
国内の全パートナーが「Bob」利用へ
AI駆動開発ツールの「IBM Bob」について、日本IBMは、パートナーに対して、自身が最初の顧客となる「クライアントゼロ」を強力に推し進めている。常務執行役員の榎並友理子・テクノロジー事業本部第二営業本部兼パートナー事業部長は週刊BCNの取材に、数百社に及ぶ全パートナーがBobを利用することを目指す方針を明らかにした。同社によると、6月には提供基盤として東京にデータセンター(DC)を設置する予定で、大規模展開の推進役となる。
(左から)イグアスの伊藤瑞穂・取締役専務執行役員、
日本IBMの榎並友理子・常務執行役員、
エヌアイシー・パートナーズの海野征則・取締役
Thinkに訪れた大勢の国内パートナーを前に、この方針がアナウンスされた。ユースケースはすでに生まれている。エヌアイシー・パートナーズは表計算ソフトのマクロで作られた小規模な処理をBobで可視化し、Webアプリケーションにする取り組みを推進。イグアスはパートナー向けシステムのリニューアルに活用している。
榎並常務はパートナー自身が性能を実感した上でユーザー向けへの展開に期待を寄せる。ほかにも強力なソリューションがある中、訴求点はどこにあるのか。イグアスの取締役専務執行役員を務める伊藤瑞穂・パートナービジネス事業部長と、エヌアイシー・パートナーズ取締役の海野征則・技術企画本部長も取材に応じ、機能面では「Claude」や「Mistral」などから最適なモデルが自動選択されることがメリットだと答えた。さらにUIの分かりやすさに加え、価格競争力もあり、受け入れられやすい条件がそろっているという。
日本IBMのパートナー戦略では、SaaS販売を重視したインセンティブを7月に導入することが明らかになった。「AWS Marketplace」で先行するハイパースケーラーのクラウドマーケットプレイスへのラインナップに関しては、「Microsoft Azure」と「Google Cloud」でも展開を図る方針だ。(春菜孝明)