福島県郡山市に本社を置く福島コンピューターシステムは、40年以上のシステム開発経験を強みに広く案件をカバーし、AI活用による自社の生産性向上にも注力している。渡邊一夫社長は、社内外で知見を蓄積しながら労働力不足やナレッジ継承など顧客の課題に向き合っていくと意気込む。
(取材・文/下澤 悠)
ノーコードに注力
――事業の紹介を。
設立の頃から独立系SIerとしてシステムの受託開発をメインに手掛けている。現在の事業展開はシステム開発が6割、技術者を派遣するSES事業が3割ほどで、残りの1割が物販や自社開発サービスの提供などだ。業務系システムのほか、鉄道の信号の制御システムなども担っている。以前は制御や組み込みにも強いというのが当社の特徴の一つだったが、最近はやはりWeb系や業務系クラウドの比率が高くなりつつある。
近年はノーコード開発に力を入れており、サイボウズの「kintone」を取り扱っている。データ共有ができ、社内で顧客からの問い合わせを一元的に把握しやすくなるほか、従来「Excel」で管理していたような日報や勤怠管理なども移行できる。アクセス権などもしっかり管理でき、ガバナンスを効かせられる点も良い。当社では、スマートフォンで撮影した写真から自動的に情報を抽出しkintoneにデータを入力できるプラグインの「モジトリ」を開発しているが、工場などの現場を含む多くのユーザーに好評で、全国で展開している。
――事業における強みは何か。
40年以上のシステム開発経験があるのでカバーできる範囲が広く、そのシステム規模も大・小と幅広いことだ。長く働いてくれる社員が多いため、顧客との関係が密で、信頼されているのも良い面だと思っている。
生成AI活用で開発を効率化
――生成AIで開発の効率化に取り組んでいると聞く。
現在160人あまりの社員が、コード生成などを自動化する「GitHub Copilot」のエージェントモードを使っており、非常に生産性が高くなった。また、AIはテストデータをつくるのも得意なため、システムのテストパターンを網羅できるように活用している。
渡邊一夫 社長
社内では、独自ツールの「KnowledgeSpark(ナレッジスパーク)」に社内データを連携させ、問い合わせシステムを整備した。AIが理解しやすいようにMarkdown記法で記述したデータを、「ChatGPT」とRAG(検索拡張生成)でつないだものだ。総務部門への問い合わせを減らす効果を出しているが、今はまだノウハウを外部へ提供するというよりは、知見をためる段階だと考えている。われわれ自身の生産性を大きく向上させることが優先だ。
――主な顧客は。
メインは首都圏のメーカーなどだ。県内の顧客数は多いが、売り上げに占める割合は15%ほどになる。県沿岸部では、東日本大震災後の産業や生活の回復に貢献しようと、地元企業として大手とタッグを組みながら事業を展開している。
――顧客の関心が高いIT分野は何か。
やはり地方は労働力不足が課題なので、業務の自動化や効率化といったDXへの関心がある。ベテランが持つ知識・ノウハウを若手に継承することにも課題感があるので、AIが効くのではないかと思う。当社が開く生成AIに関するセミナーは参加者数が圧倒的に多く、関心が高いのだと感じる。
AIが得意な言語化の能力を用いて、企業の暗黙知を形式知化するソリューションの開発に取り組んでいる。工場のラインに置いたスマートフォンに、障害発生時に内容を入力してもらい、これを知識化するといった取り組みを、協力を得た企業と共同で進めている。ナレッジの継承はうまくいっている例が少ない領域なので、やりがいのあるところだ。
地方で最先端の開発ができる場に
――持続的な成長のために課題になることは何か。
やはり人材の育成と確保、そして活躍の場を用意することだろう。採用には非常に力を入れており、地元では大学の学食のトレーに社名を入れたりテレビCMを流したりして、学生とその親を対象に含めて認知度を上げる活動をしている。奨学金で苦労する社員もいるので、多くの企業が導入を始める奨学金の代理返還を当社も2026年度から開始するつもりだ。
育成のためには、顧客との関係も徐々に若手へシフトしていくことが必要だ。時間をかけて若手に仕事を覚えてもらえるような案件は昔に比べて少ないが、できるだけ新しい分野にチャレンジしてもらい、経験を積ませたい。就業時間の5%を何でも自分の好きな学びに使える「5%ルール」を設けるなどして、会社として応援している。
――今後の展望と意気込みを。
社員の多様な働き方に対応するため、なるべく社内で活動できるラボ型開発や自社サービスの展開を増やしたい。プロデューサーのようにAIをうまく使う技術者を増やしながら、顧客の相談相手になることを目指す。福島県は自然豊かで、おいしい日本酒や温泉もあるすごく良い土地だ。そんな地方にいながら最先端のシステム開発ができる会社にしていきたい。
Company Information
福島情報処理センターから分離し、1983年に設立。システム開発やSESなどを担う。福島県郡山市の本社のほか同県南相馬市、茨城県、栃木県と東京都に拠点がある。従業員数は2025年5月1日時点で331人。