IT業界で何十年にもわたって繰り返されてきた問いがある。「なぜ日本企業は、欧米に比べITの活用が下手なのか」「どうして日本はITで世界の覇権を握れないのか」
これに対して同じく繰り返されてきたのが、「解雇規制の厳しい日本では雇用の流動性が低いため、大勢のIT技術者を自社で抱えるのが難しく、外注に頼らざるを得ないから」という説明である。一般企業がIT技術者を自社雇用する米国などでは、ユーザーニーズを正確に反映したソフトウェアを素早く開発できるのに対し、技術力を社外に依存する日本ではスピードや改善サイクルに難があり、IT技術者も外注業者であるため、ビジネスへの貢献が評価されにくいというわけだ。
ただ、このロジックにうなずける部分はあるものの、正しいとは言えない。なぜなら、米国はITアウトソーシングの巨大な需要国であり、大量のIT業務が外注されている。ITが一大産業となっているインドでは、ITサービスの最大の輸出先は米国だ。米国企業のITが強い理由の一つとされる、「外注でなく内製しているから」という前提がそもそもおかしいのである。
また、プロジェクトごとに技術者を雇用し、カットオーバー後には運用担当者以外を解雇するといった、ドラスティックな人員の増減が行いにくいのは確かだ。しかし、米国に比べれば日本の解雇規制は厳しいものの、OECD諸国の中で日本は特段解雇が難しい国ではなく、むしろ大陸欧州各国よりも規制は緩い。世界のIT市場における欧州と日本の競争力を比較するのは難しいが、「日本のIT業界だけに特殊な構造がある」という単純な捉え方をしていいのか、慎重に考えるべきだ。
私見を述べるならば、欧米の成功企業はインフラ構築・運用や、比較的ライフサイクルの長い基幹システムなどは積極的にアウトソースし、現場業務や顧客接点に近い領域は内製を志向しているように見える。国内ではそのような戦略が曖昧なまま「外注は問題」「DX推進なら内製化」といった議論が先行していることが、問題なのではないだろうか。
わかりやすい“敵”を見つけるとそれを叩きたくなるのが人の習性だが、問題の原因はそんなに単純ではないことが多い。「日本は〇〇だから」と特殊事情を探すことに終始するよりも、自社や顧客の課題に正面から向き合いたい。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。