東北地方唯一の政令指定都市仙台市がある宮城県。そのICT産業の振興を支えるのが宮城県情報サービス産業協会(MISA)だ。2026年には設立30周年を迎える。企業が直面する人材不足という課題に、採用支援や産学官連携を通じて地域企業への人材確保を進めている。阿部嘉男会長に、取り組み内容や今後への期待について取材した。
2026年に設立30周年
――MISAはどんな団体ですか。
当協会は、ICT技術の利用促進と人材育成を通じて、地域情報化と社会経済の発展に寄与することを目指し、1996年に設立されました。26年には、設立30周年という節目の年を迎えます。会員企業は254社(25年6月時点)で、そのうち正会員は200社。従業員数50人以下の規模の会社が6割以上を占めています。
「ICTを地域の力に」を理念に、地域の課題解決や産業の発展にICTをどう生かすかという視点で取り組みを進めています。
――理念の実現に向けた方針を教えてください。
理念達成の方向性として、「地域社会の課題解決」「産学官連携の強化」「ICT産業の振興」「グローバル展開と人材育成」の四つの柱を定めています。それぞれ、ICT利活用による地域貢献や、他地域・他産業との協力、地域特性を生かした事業拡大、持続的な成長の基盤を目指しています。
阿部嘉男会長
地元の高校と連携した活動を推進
――特に注力している取り組みはありますか。
近年、大きな課題となっているのは、人材不足です。MISA内に「人財委員会」という委員会を設けており、人材の教育や確保といった観点から、採用支援や研修、産学官連携会議といった活動を行っています。
例えば、文部科学省が推進する「マイスター・ハイスクール事業」の支援をしています。産業界と専門高校が一体となって、地域産業の成長をけん引する職業人材を育成することを目的とした事業です。先進的な取り組みを行う専門高校などをマイスター・ハイスクールに指定し、実践研究を行う仕組みとなっています。最近では、仙台工業高校がマイスター・ハイスクールに指定されたので、当協会は産業界として連携し、専門性の高いIT・DX人材育成の支援を実施しています。
そのほか、宮城県のICT関連企業で働きたい人への情報発信やイベントの開催、教育、インターンシップなどを実施する「伊達なICT-WORKせんだい・みやぎ」があります。Webサイトでは、求人情報のほか、求職者に企業を深く理解してもらうための記事やインタビューなどを掲載しており、人材の誘導を図っています。
このようにして、地元の学生に地元企業へ入っていただくための取り組みに力を入れています。
――会員企業は、人材の確保に関してどのような課題を抱えているのでしょうか。
先ほど述べましたが、正会員の多くが中小企業のため、求人募集の際、大手の就職・転職活動向け求人情報サイトはコスト面で手が出しにくいということが少なくありません。そのため、伊達なICT-WORKを、採用関係のプラットフォームとして運営しています。
これまでの取り組みを継続することが重要
――26年には設立30周年を迎えます。どんなことに取り組みますか。
今までやっていた取り組みをしっかりと継続していくことが大切です。いかに長く、いいことをやり続けられるかという部分に、業界団体としての価値があると思います。なにか新しいことを始めたとしても、それが続かなければあまり意味はありません。
そう考えると、引き続き人材確保や教育を中心とし、DXやAIに関する事業創出にどのように取り組むか、また、地域への貢献の方法をより深く模索していきたいと思います。加えて、MISAのプレゼンス向上にも取り組んでいきます。
――宮城県含め、日本のIT業界が今後どのように変化していくのかについての考えや期待をお願いします。
AIが当たり前の世界がやってくるでしょう。最近は生成AIやAIエージェントが大きな注目を集めていますが、例えば5年経った時、誰も今のように特別視していないと思います。その時には、自分たちが意識をせずともAIを使っているからです。
私は、日本人は技術が成熟した後で、それをうまく使う性質があると考えています。AIについても、日本人の感性を生かすことで、勝ち筋が見えてくるのではないかと期待しています。
<紹介>
【宮城県情報サービス産業協会】
1996年に設立。ICT技術の利用促進と人材育成を通じて、地域情報化と社会経済の発展に寄与することを設立目的とする。会員は合計254社(2025年6月現在)。