私は鹿児島県姶良市で、新しい私立小学校を立ち上げるプロジェクトに参画している。目指しているのは「普通の小学校」だ。ここで言う普通とは、特別な教育を施すという意味ではなく、世界にあまねく通じる、人としての土台を育てる学校である。
明治以来、日本の学校制度は、全ての子どもに効率的に知識を伝える仕組みとして発展してきた。しかし、制度の上に制度を重ね、教育をサービス業として運用してきた結果、現場には制度疲労が生じている。その違和感を敏感に感じ取った保護者の中には、海外の学校やフリースクールを選択する人も増えている。
小学校での学びは、人という生き物が大人へと成長するうえで極めて重要な時期である。私たちは、どのような学校が本当に必要とされているのかを考えるため、多くの教育関係者に話を聞いた。その中で改めて行き着いたのが「学習指導要領」だった。将来の社会を生きる人材に求められる力と、その育て方が示された優れたガイドである。しかし現行制度の制約の中では、その本来の意図が十分に生かされにくくなっている。
そこで私たちは、学習指導要領に正面から向き合い、その中でも特に「食」と「ことば」を大切にする小学校を構想するに至った。
私たちは日々、教科書、ニュース、SNS、生成AIの回答など、膨大な言葉に囲まれて生活している。しかし、その言葉が自分の体験や感覚と結びついていなければ、文章を読んでいても実は意味を理解できていないことがある。これは「言葉と身体知が接地していない状態」と言える。
例えば「速さ」という言葉も、公式だけを覚えるのではなく、実際に走ったり、自転車で坂を下った経験があったりしてこそ実感を伴う。言葉と、体を通した経験の結びつきが弱いまま学びを進めると、文章を読んでも「何が書いてあるのか分からない」状態に陥る。
生成AIは便利な知の道具だが、問いの意味を理解できなければ、返ってきた答えも理解できない。重要なのは、言葉を自分の経験に根づかせる土台である。この力は、大人になってから急に身に付くものではない。ITやAIの時代だからこそ、言葉を大切にする小学校の役割は、ますます重要になると私は考えている。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年生まれ。奄美大島出身。中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了(経済学修士)。ヤンマーにおいて情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業業務全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。2025年より鹿児島大学大学院理工学研究科特任教授。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。