視点

自治体システム標準化のゆくえ

2024/04/17 09:00

週刊BCN 2024年04月15日vol.2010掲載

 デジタル庁は、3月5日にホームページで「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化における移行困難システムの把握状況について」を公開した。

 23年10月に全国の自治体に対して、25年度末を期限とする移行作業が間に合うのかどうかという調査を実施した結果だ。全国の都道府県・市区町村1788団体、3万4592システムのうち、調査時点で171団体(10%)が移行困難自治体、702システム(2%)が移行困難システムに該当する見込みだ。そのほかにも、50団体、487システムについては、調査時点で移行困難システムに該当せず、判定を保留とし、引き続き状況を調査しているので数はさらに増えるかもしれない。

 調査時点で移行を困難にしている主な理由は二つ。一つは、現在利用しているシステムの事業者は標準準拠システムの開発を行う予定がなく、ほかの事業者に開発依頼の受け入れを断られているというケースだ。

 二つめは現在利用しているシステムがパッケージでなく、個別開発なので標準化システムへの対応が間に合っていないケースだ。その中には標準化の意向が発表されるまで、市民サービスの向上と現場の効率化のためにBPR(業務プロセス改革)を独自で盛んに行っていた自治体もある。

 人口減少社会において、これからの自治体の役割に合わせたシステムを考えると、統一・標準化の流れは正しい選択だと思う。

 しかし、各自治体の事情やシステム開発事業者の事情もあるので、これから救済策やスケジュールにおいては見直しが進むことになるだろう。プロジェクトマネジメントの立場からもストレッチ目標は緊張感の醸成にはよいが、ゴール近くになってくると現実的な対応も必要だ。

 市民からは標準化によって市民サービスの低下を懸念する声も聞こえてくる。標準化という作業には、レベルの低いところの引き上げと、レベルの高いところの引き下げが伴う。個別の事情に対応したかゆいところに手が届くシステムではなくなる。これも将来の保守を考えると致し方ない。

 そこで自治体側で忘れてはならないのが、BPRにかけていた人員や労力を別のサービスに振り分けることだ。より現場に近いところ、よりヒューマンタッチが必要とされるところに再配置することで、システムでは救いきれない隙間を埋めることが大切である。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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