多くの企業が「生成AIをいかに活用すべきか」と思案し、「どの業務にどのクラウドAIを割り当てるべきか」と議論を重ねている。個人利用の普及も相まって、実体験に基づくツール談義が日常的に交わされる光景も珍しくない。
だが、その発想の延長線上でクラウドAIを選定して本当に良いのだろうか。もし「業務ごとにツールを割り当てる」という思考の枠組み自体が本質的に誤っているとしたら、その取り組みの先行きはどうなるのか。
この問いを解くには、IT市場の構造を直視する必要がある。国内で「生成AIソリューション」を標榜する事業者の多くは、海外メガクラウドのAI基盤を組み合わせるインテグレーターにとどまり、市場全体が彼らのプラットフォーム上で動いているに過ぎない。
問題は流通する情報の偏りと、それを無批判に受け入れる構図にある。連日発信される情報の多くは機能やベンチマーク比較に終始し、「ツール選択」を自明の前提としている。事業者が目まぐるしく仕様を更新する中、ITベンダーは新機能追従をアピールし、利用企業側もスペック追従こそが成否を分けると思い込む。だが、前提そのものの妥当性を疑う者はまれである。しかも、この「ツール選択」の思考には三つの深刻なリスクが潜んでいる。
第1に「課題解決の本末転倒」だ。絶え間ない仕様変更やツール比較に追われることは、本来向き合うべきデータガバナンスの確立や業務プロセスの再設計といった、本質的で難易度の高い課題からの逃避を意味する。
第2に「インフラの役割に対する過信と誤解」だ。クラウドAIは電気や通信と同じ共通インフラに過ぎない。その比較検討にどれほど時間やコストを投じても、企業固有の競争優位や差別化には結びつかない。
第3に「新たな技術的負債の再生産」だ。場当たり的に業務と外部モデルを密結合させれば、事業者の仕様変更のたびに改修を強いられ、権限管理やセキュリティー統制が及ばないツールが乱立する。結果として、組織内に管理不能なブラックボックスを増殖させる。
「どのツールを選ぶか」という手段の目的化に埋没してはならない。向き合うべきは、自社固有のコンテキストをつかさどるデータ基盤の整備と、外部サービスに振り回されない自律的なシステムアーキテクチャーの確立である。
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京・八王子市生まれ。72年、慶應義塾大学工学部管理工学科卒業。94年から山梨学院大学経営情報学部助教授に就任し、現在、同学部教授。00年11月、きっとエイエスピーを設立し、代表取締役社長に就任。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。