視点

大阪の空を飛ぶレース機が見せた都市の未来

2025/09/17 09:00

週刊BCN 2025年09月15日vol.2075掲載

 大阪・うめきた(大阪駅北地区)で9月6日に開催された「AIR RACE X(エアレース・エックス)」2025シリーズは、未来の都市体験を先取りしたイベントだった。スマートフォンを空にかざすと、時速400kmのレース機が大阪の高層ビル群を縫うように飛んでいく。世界各地のパイロットが実際に飛行したデータを、XR技術で大阪の街並みに重ね合わせた革新的な観戦体験だ。

 従来のスポーツ観戦といえば、スタジアムや専用施設が必要だった。しかし今回は、グラングリーン大阪の緑豊かな公園がそのままレース会場になった。同じ空間で音楽ライブやワークショップも同時開催され、一つの場所で複数の楽しみ方を実現。これこそが「未来志向都市」の姿であり、限られた土地を最大限活用しながら、デジタル技術で無限の可能性を生み出している。

 環境面でも画期的だ。世界中のパイロットがわざわざ大阪に来る必要がなく、巨大なサーキットを建設する必要もない。それでも観客は最高品質のレースを楽しめる。まさに持続可能なエンターテインメントの新しいかたちだ。

 さらに注目すべきは、大阪・関西万博会場との連携だ。うめきたと夢洲、離れた二つの会場が一つのイベント空間としてつながった。将来的には、東京や海外都市と同時開催できる可能性を示している。

 このイベントが示したのは、リアルとバーチャルが対立するものではなく、むしろ融合することで新たな価値を生むということだ。実際の街並みという「リアル」があるからこそ、そこを飛ぶレース機の「バーチャル」映像に臨場感が生まれる。教育現場では歴史の授業で過去の街並みを再現したり、ショッピングでは実店舗に商品情報をデジタル表示したりと、応用の可能性は無限大だ。

 重要なのは、これらの技術によって都市に住む人々の体験そのものが豊かになることだ。同じ街角でも、デジタル技術を通して見ると全く違う世界が広がる。住民は単に「そこに住んでいる人」から、「街の新しい体験を一緒につくる人」へと変わっていく。

 大切なのは最新技術を使うことではなく、それによって人々の日常がより楽しく、より便利になることだ。大阪の空を飛んだレース機は、私たちの都市生活の未来を明るく照らしているのではないだろうか。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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