自宅近くの事務所を閉めるに際して、長年手つかずだった名刺を整理していたら、なんとソフトバンクの孫正義さんの名刺が出てきた。肩書は代表取締役会長とある。多分私が神奈川県庁の工業貿易課でベンチャー企業振興の仕事していた時代に県庁においでいただいたか、あるいは、どこかの会合でお会いしたものと思われる。
当時のソフトバンクは、東京・千代田区九段南の雑居ビルにオフィスを構える小さな会社で、ロゴマークも今とは異なる。あれから四十数年、おそらく本人すらも会社がここまで大きく成長するとは思わなかったのではないのか。一言でいえば特異な経営戦略で突き進んできた成果なのだろう。
よく見ると静態系の日本の産業群の中にあってもソフトバンクのような特異な経営戦略で突き進んで成長している企業がいくつかある。アパレル業界でユニクロを展開するファーストリティリング、金融業界のSBIホールディングス、流通業界のドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、住宅業界ではオープンハウスグループである。
もう少し具体的に指摘すると、ユニクロは洋服をファッションではなくフォーシーズンの生活インフラとして市場に提供した。SBIホールディングスは証券、銀行、保険、暗号資産、ブロックチェーンと幅広い金融分野に進出し、これらを連携させながら差別化を図り付加価値を高めた。ドン・キホーテはスーパー+コンビニ+専門店のごった煮業態で流通革命を起こし、海外を含めて感動を売るという新規市場を開拓した。オープンハウスは都心・駅近・戸建ての格安住宅を、土地の仕入れ・設計・建築・販売までを一貫体制で行う経営戦略であっという間に業界上位の地位に登り詰めた。
これらの特異な経営戦略を行う会社の大きな特徴は、(1)カリスマ経営者であること(2)経営のスビートがすこぶる早いこと(3)業界の常識を破っていること(4)時代の変化に敏感であること(5)社員に熱気を必要とすること──と言える。
少子高齢化で成熟経済の現在、どう考えても従来通りの業界の常識的な成長戦略では大きな発展は難しい。これらの会社が特異な経営戦略ではなくて、実は新しい時代の最適な経営戦略なのだ。
アジアビジネス探索者 増田辰弘

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。