子どものころ、アマチュア無線の資格を取った。見知らぬ人と話すのは得意ではないので、電波を通じて他の無線家と会話すること自体にはそれほどのめり込まなかったが、どこまで電波が届くのか挑戦するのは面白かった。
アマチュア無線技士の試験には、電波法や関連する規則の知識を問う「法規」、電子回路や通信技術に関する「無線工学」の2科目がある。現在は廃止されているが、私が受験した当時は、上級資格の取得にはモールス信号の実技試験である「電気通信術」に合格することも必要だった。
私は学校の勉強は好きではないし、数学が苦手な文系人間なのだが、アマチュア無線の勉強はなぜか楽しく、4段階ある資格のうち上から二つめの「第二級」まで取得することができた。学んだ内容はほとんど忘れてしまったが、例えば新しい通信技術の説明を受けたときに専門用語の意味を大まかに理解したり、通信サービスを展開する場合にどんな法対応が必要となるのかをぼんやりイメージできたりと、現在の自分の仕事にも間接的には役立っていると思う。テクノロジーはこの数十年で様変わりしたが、当時鍛えた頭の筋肉は、今も少しは力を発揮している。
経済産業省は今年、運転免許に次いで受験者数が多い国家試験とされる、情報処理技術者試験の見直し案を発表した。シニアSEへの登竜門だった「応用情報技術者試験」をなくし、より幅広くかつ専門性のあるデジタルスキルの取得を目指す体系に再編する。一方、“基本情報”あるいは旧名称の“二種”で呼ばれることの多い、半世紀以上の歴史を持つ「基本情報技術者試験」は継続方針だ。
「基本情報を取っても、システム開発の現場では役に立たない」と言われることもある。確かに、技術的には基礎知識の範囲だし、プロジェクト管理やIT戦略に関する出題もあるが、仕事は教科書通りには進まない。それでも、「基本」とはいえ合格率は4割以下の試験で、誰でもクリアできるものではない。知識や考え方のベースがなければ、実務者として能力を高めていくことは難しい。
テクノロジーの進化のスピードが速まるほど、それについていくためのスキル教育への注目も高まる。しかし、変化を理解し続けるための“頭の筋肉”は、そう簡単には古びない。流行を追う力だけではなく、変化を吸収し続けるための基礎体力にも目を向けたい。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。