「このサービスは大勢 of 顧客に支持されており……」
生成AIと対話しながら社内資料を作成していたら、画面の向こうから思いもしない表現が返ってきて思わず吹き出した。「大勢 of 顧客」とは。ひょっとしたら、私が知らないだけで、若者の間で流行しているスラング的な様式なのかもしれない。しかし、前後の文章は堅苦しい言い回しなのに、ここだけ「of」を用いる必然性はなく、単に「顧客の大多数から」などと言えばいい部分だ。
生成AIがはやり始めたころは、プロンプトに対して荒唐無稽な内容が出力されるのは日常的で、それを微笑ましくも感じたものだが、最近は性能が上がり、笑い話になるような回答はまれになった。しかし、この「大勢 of 顧客」という表現を見て、以前AI研究者に取材した際、「英語の学習データを増やすと、日本語の回答精度も向上する」と聞いたことを思い出した。
想像するに、私が資料作成時に対話していた生成AIサービスは、英語を軸に検索や推論を進めていたのだろう。結論をユーザーに伝える際に、表現を日本語に直す作業が一部で漏れ、タレントのルー大柴さんのような口調が出てしまったのではないか。
考えてみれば当然だが、さまざまな情報を集約して新たな洞察を提示することと、違和感のない自然な日本語表現を生み出すことには、違う能力が求められる。いかにプレゼンテーションが上手な人であっても、まったく“土地勘”のない業界についていきなり「各社の経営課題を踏まえたうえで、含蓄のある話をしてほしい」と頼まれたら、普段から話し慣れている一般論を紹介するしかない。逆に、ある領域について深い知見を有する人が、その内容をわかりやすく印象的な表現で伝えられるとは限らない。
最近、日本語に強い生成AIや、ドメイン知識に特化したAIモデルを提供することが、AIの世界における「日本の勝ち筋」だとする意見が聞かれることがある。もちろん、現場の業務にAIを導入するにあたり、それらの技術が必要となることは間違いなく、開発を加速すべきだ。
しかし、それは勝ち筋の一つではあっても、世界のAI競争を制することができるかとは次元の異なる話だ。個別領域への最適化と、「大勢 of 顧客」へのアプローチは、どちらかではなく両輪で進めるべき課題だと思う。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。