金沢市に本社を置く三谷産業は、化学品などの商社、メーカーなど複数の顔を持ち、IT事業では「POWER EGG」といった独自ソフトウェアを展開している。事業の成長にAIなどITソリューションをどう生かすか検証し、それを顧客に展開していくことで、さらなる成長を目指す。三谷忠照社長は、より多くの企業の課題解決に貢献したいとしている。
（取材・文／堀 茜）

IT事業が全社の成長のかぎ

――幅広い領域で事業を展開している。

　6事業セグメントの中で化学品関連事業が売り上げの4割を占め、情報システムを含む5事業はそれぞれ10～15％の割合で推移している。IT事業は、各領域をつなげたり重ねたりといった役割を担う方向に注力している。異なる事業領域同士を掛け算して、成長させるためにかぎになるのがITと認識している。

　どの事業領域にもDXは必要で、現在はさらにAIがプラスされている。当社が展開する各事業領域は日本の産業の縮図と考えており、これら全てにAIをどう生かしていくかを当社の中だけで考え検証できるのが強みになっている。自社をクライアントゼロとして、そこからお客様に展開していくのがシナリオとしてやりやすい。

――顧客のエリアや業種の特徴は。

　情報システム事業の中心はSIで、お客様は全国各地におり、顧客数でみると地元である北陸エリアが多くを占める。北陸では公共案件が多いが、全体では製造業や金融業などが中心になっている。

多くの課題を解決する製品開発

――独自開発したソフトウェアの紹介を。

　子会社であるディサークルが開発・提供している「POWER EGG」は、グループウェア、申請ワークフロー、Webデータベースなど多くの機能があり、日常業務を何でもセットできる製品だ。9月には富山県内の七つの信用金庫が一斉に導入するなど金融系での採用が多く、約1500社に導入いただいている。
 
　販売はパートナー経由で、パートナーが強みを持つ業種ごとに必要とされる固有のテンプレートをつくり、同じ課題を持つ企業に対して横展開するかたちで拡販している。POWER EGGを販売できるホワイトスペースはまだまだあると考えており、販売パートナーも拡大していきたい。

――ソフトウェアの製品開発の方向性は。

　POWER EGGは業種・業界を問わない製品だが、誰かの困りごとがあり、それが1社2社ではなく業界全体に貢献できると判断できれば、ソリューションとして成立すると考えている。例えば、印刷業向けにはクラウド型の汎用MIS（Management Information System）として「BRAIN」を提供しているほか、クラウド間連携の「Chalaza（カラザ）」はクラウドサービス事業者とユーザー企業の双方にメリットが大きいソリューションだ。

――ベトナムにオフショア拠点も持っている。

　スタートしたのは約30年前で、当初は当社自身が必要な時期に必要なリソースを確保するためのオフショア拠点だったが、現在は自社利用だけでは広がりが期待できないので、サービスとしてソフトウェア企業やSIerにも利用いただいている。

　人件費を抑えるというコストメリット以上に、ベトナムの人たちのクリエイティビティーや感性を高く評価しており、開発力として高い信頼を置いている。

AIの知見や事例を広く共有

――AI関連ではどんな取り組みをしているか。

　今、力を入れているのが「バーチャルCDO（Chief Digital Officer）サービス」だ。北陸にいると強く感じ、地方はどこも同じ状況だと思うが、企業の中にはデジタル戦略を担える人材がいない場合が多く、AIを活用しようにも戸惑ってしまう現状がある。お客様のビジネスにおけるAI活用アイデアを共に考え、その推進を伴走支援している。月額サービスだが、ニーズは非常に高く企業規模を問わず使っていただいている。

　当社では、AIの活用アイデアをどんどん発信している。お客様に参考にしていただこうとの考えから、グループ内におけるAIやDXの事例を公開する「三谷プロトタイピングポートフォリオ」というサイトも持っている。自社の事業でAIを使って効果が高かったものを紹介しており、ここから問い合わせをいただいて受注につながることもある。当社の知見を広く共有し、多くの企業のAI活用を促進していきたい。

――今後の展望を。

　当社では従来のウォーターフォール開発でも、アジャイル開発でもない新しい開発手法「プロトタイプウィービング」を用いている。お客様の課題を発掘して最初に試作し、ブラッシュアップしていくことで正解のないイノベーションを具現化できると考えており、お客様の課題解決につなげていきたい。また、教育現場でのITにも注力しており、金沢市内に、NPO法人と共同で子ども向けのSTEAM教育施設を運営している。次世代に向けてのR＆Dと位置付けており、地域に根ざしている強みを生かし、デジタルと教育の本質的な融合に貢献していきたい。


Company Information
1928年創業。本社は金沢市。化学品、樹脂・エレクトロニクス、情報システム、空調設備工事、住宅設備機器、エネルギーの6領域で事業を展開する複合商社。全国7都市に加え、ベトナムなど海外にも拠点を置く。2025年3月期の売上高は1030億7200万円。25年3月末の従業員数は連結で3563人。