山梨県甲府市に本社を置くワイ・シー・シーは、自治体や教育機関、福祉事業者などと連携した地域ビジネスの創出に力を入れている。発達障害の子どもの個別支援の情報を関係各所で共有できるサービスは、2030年までに全国150の自治体への納入を視野に入れる。26年9月にスタートした仕事と介護を両立させる支援サービスでは、自治体や金融機関、介護支援専門員などと連携して、「介護離職」を防ぐ伴走支援を行っている。地域に根差し、社会課題の解決につながる独自サービスでビジネスを伸ばす。
(取材・文/安藤章司)
データ駆動社会は自律分散で
――どのようなビジネスを手掛けているのか。
通商産業省(現経済産業省)が各県に計算センターを開設する方針を示し、その下で山梨県の有志が1966年に設立した山梨計算センター当社のルーツであり、地元の自治体や病院など公共分野で強みを持つ。電子カルテをはじめとした病院向けのソリューションでは、富士通のコアパートナー企業として実績を積んできた。
長坂正彦 代表取締役社長
――AIによるコーディングの自動化が進んでいるが、影響あるか。
プラスの影響ならある。AIによる生産性向上はもとより、情報サービス産業協会が26年5月に発表した「AI共生宣言」にあるように、社会のデジタルアーキテクトとして、AIを社会に実装していく先導者としての責任を果たす仕事に取り組む。
コロナ禍の約3年間を通じて、リモートワークなどのオンライン化が急ピッチで進み、「何がなんでも出社しなければならない」という従来の固定的な働き方を見直すきっかけになった。AIの台頭も既存の固定観念を打ち破る、よい頭の体操になると思うし、地域のSIerとしてAIネイティブな時代に取り残されることのないよう先導者の役割を担う心構えだ。
――地域のSIerが果たすべき役割とは何か。
AIネイティブ時代では、データの蓄積と活用の重要度が一段と高まる。AIはデータを短時間で読み解き、分析する能力に長けていることからデータ駆動社会の色彩がより濃くなる見込みだ。国が全国の公的機関のデータを中央に集めて運用する方法もあるだろうが、私は地域ごとに自律分散させる方法も重要だと捉えている。当社が計算センターからスタートし、現在もデータセンターを運用している立場として、自治体や病院、教育機関といった地域に根差したデータは地域で管理し、全国の都道府県同士で横の連携ができる仕組みがよいと考えている。
発達支援や介護離職を防止
――自社の独自ビジネスはどんなものがあるのか。
当社独自のサービスとして、発達障害の子どものための「個別支援計画」を一元管理する「INCLSS(インクルス)」がある。幼稚園・保育園から小・中学校、高校へと進学するにつれて、発達障害に関する情報や支援の記録が途切れがちになることが大きな問題である点に着目。INCLSSは就園、就学、進学の各段階で、教育委員会や学校、発達支援センターなど関係者が切れ目なく情報を引き継ぎ、共有できるサービスに仕上げた。
東京都日野市の取り組みをモデルケースとし、18年から本格的に商用サービスを始め、16年に改正された「発達障害者支援法」にも対応している。現在は15自治体に採用していただいており、30年までに150自治体に納入する目標を掲げている。
自治体や教育委員会、支援センターなど関係機関それぞれの課題を聞き込み、ソリューションに仕上げていくのは、人間でないとできない仕事であり、AIで代替できるものではない。AIを活用できるところは積極的に活用する一方、社会課題の解決に向けてさまざまな人を巻き込んだソリューションづくりに力を入れている。
――社会課題を解決するソリューションはほかにもあるか。
当社グループ会社のウェルフェアと、山梨中央銀行やマーケティング会社のグッドウェイ、ビジネスケアラー支援サービスのメディトリーナの4社が連携して、「仕事と介護の両立支援サービス」を9月1日から本格的に始めた。同時期にスタートした山梨県介護支援専門員協会の「山梨県ケアラーコンシェルジュサービス」と連携し、親などの介護のために仕事を辞めなくても済むよう、ユーザー企業内における介護離職の実態把握や体制づくりを継続的に伴走支援していく。
熟練社員の介護離職は、企業にとって貴重な人材を失うこととなり、当人にとっても収入が減り、社会の活力を削ぎかねない社会課題になっている。これをなんとか解決したいという思いで関係各所と実証実験を重ねて、有効性を確立したサービスにつくり上げた。
――地域に根差した連携ビジネスが強みとなっているように見える。
地域のITベンダーだからこそできる連携ビジネスがある。地場の産官学に加えて地場の金融機関と連携した「産官学金」のビジネスもその一つだ。デジタルの側面から地方創生を推進していくには、地場の大学や自治体、産業界、そして金融機関との連携が欠かせない。これからも産官学金を巻き込んだ地方創生に役立つビジネスを推進し、事業を拡大していく。
Company Information
1966年に山梨計算センターとして創立。89年に現社名に変更。自治体や病院など公共分野に強みを持つ。グループ従業員数は220人。2026年3月期の連結売上高は35億円。26年5月に創立60周年を迎えた。