2017年IT業界の「そ・ん・た・く」
ビジネスの生産性向上の役割を担うIT。いつの時代も人間の仕事を奪うとして、何かと警戒されてきた。IoTやAIは、さらにその傾向を強めている。無人工場の実現は、その代表例だ。事務作業も、RPAとAIに奪われつつある。影響を受ける現場では反発が予想されるが、人材不足も深刻な問題。無人化への流れは、確実に進むだろう。とはいえ、影響のある現場に対しては、何かしらの忖度が求められる。ということで、本紙の特集記事から反響の大きかった特集を「そ・ん・た・く」で振り返ってみよう。
「そ」“ソ”フトウェア・デファインド
『伸びているのはパブリックだけではない』
汎用機器の性能向上で、専用機を用いなくても、ソフトウェアによって専用機と同等の環境を提供する。サーバーやストレージ、ネットワークなど、当初はレイヤごとに仮想化が進んだが、近年ではそれらを一つにまとめた「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」製品が次々と登場し、注目を集めている。
本紙では、HCIがクラウドの流れを変える可能性があるとして注目してきた。パブリッククラウド市場は急成長を続けており、その勢いは今後も変わらないと考えられるが、オンプレミスへの支持が根強いのも事実。オンプレミス支持派の受け皿として、HCIが有力視されている。
HCIの特徴は、IaaSの手軽さをオンプレミスで実現するところにある。クラウドのように運用できるのであれば、オンプレミス支持派にとって有力な選択肢となる。一時はすべてのシステムがクラウドに向かうかの流れだったが、適材適所、つまりハイブリッドクラウドの世界が現実解となりそうだ。
一方、大手クラウドベンダーは、IaaSだけでなく、PaaSやSaaSを含むトータルなサービスを志向している。そこを考慮すると、今後はPaaSを搭載するHCIが主力となることが考えられる。
「ん」ラ“ン”サムウェア
『まさにランカクウェア』
セキュリティ犯罪史上、最もROI(投資回収率)が高いとされる身代金型ウイルス「ランサムウェア」。なかでも、無差別で感染を広げて世界中で猛威を振るった「WannaCry」は、まさに「ランカク(乱獲)ウェア」と呼ぶべきランサムウェアだった。
WannaCryが動き出したのは、5月12日の金曜日。影響が大きいと判断した内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は、ランサムウェアへの注意喚起をSNSで呼びかけた。政府も動いた。首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置し、有事に備える。ウイルス関連で国が動くという初の事例になった。
世界と比較して、日本のセキュリティ対策が遅れている、またはセキュリティ対策への投資額が小さいとの主張がある。ところが、日本でWannaCryの感染報告はあるものの、猛威というほどでもなかった。感染拡大のタイミングが金曜日夜だったことや、WannaCryの感染方法の特性などから、日本の企業は運がよかったとの声もあるが、世界と比較して、セキュリティ対策がしっかりされているという証しになった。その点でも、WannaCryの一件はとても興味深い。なお、WannaCryの影響を受けた日本企業は、海外拠点のPC経由で感染したケースが多いとされる。
「た」ス“タ”ートアップ
『関西から世界へ羽ばたく』
現在、第4次ベンチャーブームといわれるほど、多くのスタートアップ企業が生まれている。その多くが東京に集中しているが、地方創生や働き方改革の後押しもあって、各地にもブームが拡大しつつある。とくにIT系のスタートアップは、ネットワークさえあれば活動できるため、地方に拠点を置きやすい。
本誌人気連載企画「イッポまえだのよろしくスタートアップ」では、注目のスタートアップ企業を紹介してきているが、その多くが首都圏の企業。そこで、特集では関西エリアを集中的に取材した。関西に拠点を置くことのメリットは、「関西はベンチャーが少ないので目立ちやすい」との声が多かった。とはいえ、顧客の数は「関東とそれ以外の地域で半々程度」という声が多く、頻繁に東京へ足を運んでいるという。
働き方改革を丸ごと一紙で特集した1700号で取り上げた奄美大島においても、まずは首都圏で実績や人脈をつくってからというのが、同島にあるインキュベーション施設の方針だった。地方の活動だけで経営を成り立たせるのは難しい。
ちなみに、関西圏においてもAIやブロックチェーンなど、トレンドを捉えたスタートアップが続々と生まれている。要注目である。
「く」“ク”アンタムコンピュータ
『そろそろ知っておきたい量子コンピュータ』
量子コンピュータ(クアンタムコンピュータ)関連が、にわかに盛り上がっている。AIブームが一段落し、現時点でAIができることの範囲がみえてきたため、次のステップとして白羽の矢が向けられたかたちだ。
量子コンピュータには大きく「アニーリング方式」と「ゲート方式」と呼ばれるタイプがあり、先行するカナダのD-Wave Systemsはアニーリング方式を採用している。一方、ゲート方式はIBMが先行していて、16年5月にクラウド形式で無償公開。17量子ビットからは、商用版として提供していくとしている。また、マイクロソフトも今年、量子コンピュータを発表して話題になった。
一方、国内勢も動き始めている。富士通は、CMOS上で疑似的に量子状態を再現する「デジタルアニーラ」の提供を17年度内に開始するとしている。既存のコンピュータと同様、常温で安定稼働するのが特徴だ。また、NTTを中心に開発が進められている国内初の量子コンピュータ「量子ニューラルネットワーク(QNN)」が11月27日に一般公開された。QNNも、常温稼働が可能な量子コンピュータであり、広く普及する可能性がある。今後は、量子コンピュータを活用するためのアルゴリズム開発に関心が移っていくものと考えられる。
編集部が選ぶ
Fashion of the Year 2017
倉庫作業に必須のファッション!
スーツの上に緑色の安全ベスト。FCAの浜野一典会長は、インタビューを終えて撮影に入ると、おもむろに安全ベストを着て、倉庫に案内してくれた。薄暗い倉庫では、安全ベストが欠かせないという。
FCA(富士通系情報処理サービス業グループ)
浜野一典 会長
FCAは、地域の情報処理サービス会社91社からなる団体で、その会員企業の多くが地域の情報インフラを支えるデータセンタ(DC)を運営している。昨年5月には、創立50周年を迎えた歴史ある団体だ。直近では、FCAの会員のうち42社が集まって「センター相互応援コンソーシアム」を立ち上げた。DCは停止することが許されないため、災害や事故が発生したときでも事業継続が求められる。そこで、同コンソーシアムでは災害時の助け合いとして、備品の「共同備蓄」と「緊急配送」を行う。
倉庫での活動では、安全ベストが必須。表紙写真において、浜野会長はそこをアピールした。写真から、FCAの活動に対するこだわりが伝わってくる。
(2月27日付 Vol.1667 掲載)
編集部が選ぶ
Smile of the Year 2017
夜8時、青空の下で乾杯
事業が行き詰まり、半ば現実逃避するようにエストニアのタリン大学に短期留学。そこでの体験が転機となり、現在の自分があるという。エストニアは、真夜中近くまで日が沈まない。真夜中の青空を思い出したのか、すばらしい笑顔をみせてくれた。
APOLLO11
吉丸 彰 代表取締役
APOLLO11の設立は、2011年4月。ウェブコンサルティング事業を展開するなか、13年にエストニア留学。UI/UXデザインに関する単位を取得したという異色の経歴の持ち主だ。
(2月27日付 Vol.1667 掲載)
ゆく年 くる年
2017年の後半に盛り上がり始めた量子コンピュータ。海外勢が先行しているイメージでしたが、ここにきて富士通やNTTなど、国産勢に注目が集まっています。ポイントは、室温で稼働可能なところ。海外勢の量子コンピュータは、ノイズの影響を避けるため、絶対零度近くまで冷やす必要があります。冷却装置は大きく、製品価格を押し上げてしまいます。それが不要な国産勢に空前絶後のチャンスが到来するかもしれません。この先の楽しみの一つです。
週刊BCNはIT業界の動向を深掘りし、わかりやすく、しっかりお伝えしていきます。2018年も、引き続きよろしくお願いいたします。
(週刊BCN編集長 畔上文昭)